気の向いた時の日記

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高村光太郎

「レモン哀歌」 高村光太郎

そんなにもあなたはレモンを待つてゐた

かなしく白くあかるい死の床で

私の手からとつた一つのレモンを

あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ

トパアズいろの香気が立つ

その数滴の天のものなるレモンの汁は

ぱつとあなたの意識を正常にした

あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ

わたしの手を握るあなたの力の健康さよ

あなたの咽喉に嵐はあるが

かういふ命の瀬戸ぎはに

智恵子はもとの智恵子となり

生涯の愛を一瞬にかたむけた

それからひと時

昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして

あなたの器官はそれなり止まつた

写真の前に挿した桜の花かげに

すずしく光るレモンを今日も置かう

あまりにも有名な高村光太郎の詩。

智恵子と光太郎の、愛の物語は詩によって美しくなった。